野球肘になりやすい選手
秋田労災病院リハビリ兼整形外科
関展寿
野球選手が肘を壊すと「野球肘」と呼ばれます。最近では「野球肘の治し方」の本や雑誌をよく見かけますが、著者は元プロ野球選手やトレーナーが多く、医師が書いた本が少ないのは寂しいところです。実際、野球肘の選手が最終的に行き着く先は病院なのですが。
数年前に東北・新潟のスポーツドクターを中心に「野球肘研究会」が発足し(私も世話人の末席に入っています)、そこで興味深い報告がありました。新潟のドクターからの投球フォーム解析をもとにした発表です。小学4年生にフォームの綺麗な選手とフォームの悪い選手がいました。それでは問題です。小学6年生になったとき野球肘を発症したのはどちらでしょうか?
答えは「フォームの綺麗な選手」です。フォームの悪い選手は準レギュラーで肘に過度の負担がかかることはありませんでした。フォームの綺麗な選手はピッチャーに抜擢されました。いいピッチャーだったのでしょう。勝てば勝つほど試合数・投球数が増え、投球過多に陥り野球肘になったというわけです。
フォームが綺麗なら肩・肘を壊さないというのは誤りです。第一、お手本のようなフォームのプロ野球でも手術を受けている選手が沢山いるのですから。特に小学生は成長軟骨が厚いため、大人と同じ投球数には肘が耐えられません。野球肘の大きな問題点は、いい選手ほど酷使され発症することで、選手にとってもチームにとっても不幸なことです。
重症の野球肘ばかり診ているせいでしょうか。野球好きのスポーツドクターが集まると「息子には野球をやってほしい。でも小学校の間はピッチャー以外」という話に落ち着きます。「野球は9人で行うスポーツ」ですが、ピッチャーの肉体的負担は9分の1ではないのです。我が子がピッチャーに選ばれたからといって浮かれていてはいけません。最も野球肘のリスクが高いポジションであることを認識し、指導者と親子一緒に予防策をしっかり練る必要があります。
(大館市 平成26年5月2日掲載)