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糖尿病(1)-糖尿病はどういう病気か-㊤

秋田労災病院 糖尿病・代謝内科
八代均

1、はじめに 厚生労働省が平成9年から5年毎に糖尿病実態調査を行い、糖尿病が強く疑われる人が5年毎に690、740、890、950万人と増加してきた。糖尿病の可能性を否定できない人(予備群)が680、880、1320、1100万人で両者を合わせると1370、1620、2210、2050万人で、平成24年になりようやく減少傾向が見えてきた。

 糖尿病患者が増加してきた原因の一つに我々の祖先が飢餓の時代を生き延び獲得してきた節約遺伝子がある。節約遺伝子により食事量が少なくとも過酷な労働に耐えられ生き延びてきた。それが飽食の時代となり逆に肥満させ、糖尿病をはじめとする生活習慣病を発症させることになった。さらに節約遺伝子に加えて、食事の欧米化に伴う脂肪摂取量の増加、自動車の発達による運動不足、平均寿命の延長による老化および環境変化によるストレスなどが糖尿病を発症させる主な因子である。

 糖尿病は自己管理が重要な病気であることから、スタッフによる療養指導および患者自身の自己学習が必要である。それは糖尿病教育も薬物療法と同様な治療法の一つであること、また2型糖尿病は悪い生活習慣から発症することが多くそれを改善させるために正しい知識が必要であるから。

 秋田労災病院は平成25年6月から入院糖尿病教室、平成26年1月から左の要項により外来糖尿病教室を開始した。外来糖尿病教室は5項目を繰り返し講義し、パワーポイントによるスライドを液晶プロジェクターでスクリーンに投射し行っている。講義の内容を後で復習できるようにスライドの主なものをカラープリントし渡している。?分間のうち?分は5項目を講義し、残りの5分で「ワンポイントアドバイス」として糖尿病の話題について解説している。「ワンポイントアドバイス」は繰り返すことなくその時だけである。今までのワンポイントアドバイスのテーマは、「糖代謝とバナジウム」「糖代謝に関係ある食品」「塩分と胃癌」「民間療法」「飲酒と糖尿病」「喫煙の危険性」「食事の順番と食後血糖値」「アルツハイマー病と糖尿病」「話題の新薬、尿糖排泄促進薬」などである。講義の内容を基にシリーズで糖尿病について解説する。

2、日本における糖尿病の実態 糖尿病に関する主な問題点は以下の通りである。前述のように厚生労働省の5年毎の糖尿病実態調査で糖尿病の患者数が急激に増加していること、糖尿病による失明者が年間約3~4000人で成人になってからの失明原因疾患の第2位である。糖尿病による慢性透析患者は平成25年に11万5118人で透析患者数全体の37・1%、平成25年の糖尿病による新規導入患者は1万5837人で新規導入患者全体の43・8%で、透析原因疾患の第1位である。糖尿病性壊疽による下肢切断、心筋梗塞、脳梗塞などの血管障害患者が増加している。さらに最近は認知症が糖尿病の合併症であることが明らかとなってきたなどである。

3、糖代謝について 糖尿病は一言で言うと「インスリンの作用不足によりブドウ糖が血液の中に増えすぎてしまう病気で、放置すると全身に合併症を生ずる」ということになる。

 糖質(炭水化物)脂質および蛋白質が三大栄養素で、エネルギー源として重要である。糖質は摂取すると消化管で消化されブドウ糖となり吸収される吸収されたブドウ糖は血液中に流れ込み全身へ運ばれる。血液中のブドウ糖濃度が血糖値で単位がmg/dLである糖代謝に関わるホルモンがインスリンとグルカゴンである。両方とも膵臓のランゲルハンス島内のβ細胞からインスリン、α細胞からグルカゴンが分泌される。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンで肝臓、筋肉および脂肪細胞に作用し血糖値を正常に保っている。グルカゴンは血糖値を上昇させるホルモンの一つである。食事をとれず体内へ入ってくる糖質が不足するとグルカゴンが肝臓、筋肉および脂肪細胞に作用しブドウ糖を血液内へ放出させ血糖値を上げている。体内へ糖質が入ってきたときあるいは糖質が不足しているときに膵ランゲルハンス島から分泌されるインスリンとグルカゴンのバランスにより血糖が正常にコントロールされている。最近インスリン分泌に関する消化管から分泌されるホルモンインクレチン(GIPおよびGLP―1)が明らかになってきたインクレチンに関係する経口薬および注射薬(インクレチン関連薬)が臨床で利用されている。インクレチンは、食事を摂り栄養素が小腸内へ入ると小腸上部からGIP、小腸下部からGLP―1が分泌される。治療薬として利用しているのがGLP―1に関するものである。
 
 GLP―1は多彩な作用(図2)がある。食事を摂り栄養素が小腸下部に到達するとGLP―1が分泌され、膵β細胞のGLP―1受容体に結合し、インスリン分泌準備状態となる。血糖値が上昇すると速やかにインスリンが分泌される。食事量が多いとGLP―1分泌量も多く健常者では食事量と無関係に血糖値が正常にコントロールされている。糖尿病患者ではGLP―1の分泌量が少なく、反応性が悪いとされている。GLP―1は低血糖~正常血糖時にインスリンを分泌させず、高血糖時にインスリンを分泌させる。その結果インクレチン関連薬は低血糖の危険性が低いことになる。
(大館市 平成27年5月22日掲載)
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