糖尿病(2)-糖尿病の合併症-㊤
秋田労災病院
糖尿病・代謝内科
八代均
高血糖が持続すると次第に全身に合併症が出現するようになる。合併症は細い血管が障害される細小血管障害と、太い血管が障害される大血管障害がある。細小血管障害に網膜症、腎症および神経障害がある。神経障害は細小血管障害だけでなく糖代謝副産物の蓄積が加わり発症する。大血管障害は動脈硬化症により心臓の冠動脈が狭窄する狭心症、閉塞する心筋梗塞、脳血管の障害により血管が閉塞する脳梗塞、下肢の血管が狭窄あるいは閉塞する閉塞性動脈硬化症がある。細小血管障害の原因は糖尿病であり、なり易い合併症から糖糖尿病の三大合併症とされている。動脈硬化症の原因は糖尿病以外にもあるが、糖尿病が動脈硬化症を悪化および進行させる因子であることから糖尿病の合併症とされている。ところが日本糖尿病学会が2010年に刊行した「糖尿病治療ガイド2010」でさらに糖尿病足病変、手の病変、歯周病および認知症が糖尿病合併症として加えられることになった(表1)。
1、糖尿病網膜症 我々が物を見ているのは、眼の構造から光が外部から角膜、水晶体、硝子体を通り眼底に到達し像を結ぶことによる。眼底が網膜で網膜の細い血管が障害されるのが糖尿病網膜症である。初期は網膜内の血管障害であるが進行すると本来血管がない硝子体内に新生血管が出現する。新生血管はもろいことから容易に破れ硝子体出血となる。硝子体出血が改善して行く過程で牽引性網膜剥離を引き起こし失明の原因となる。また三大合併症でないが水晶体が混濁する白内障も糖尿病合併症である。
網膜症の分類は日常臨床で使用されている改変ディビス分類があり、単純網膜症、増殖前網膜症および増殖網膜症に分類されている。臨床研究が進むにつれて分類の問題点を改善したのが新福田分類(表2)であり、眼科医がよく使用するようになっている。
網膜症の内科的予防および治療は、第1に血糖コントロールを良好にすることである。HbA1cの目標値は合併症予防のために7・0%未満であるが、可能なら正常値の6・0%未満とする。しかし、7・0%未満を目標とし努力したところが頻回に低血糖を引き起こすことがあったなら8・0%未満とすべきである。進行性網膜症あるいは不安定な網膜症は、急な血糖降下や低血糖で急に悪化することがある。目安はHbA1cを月に1%以上下げないことである。第2に血圧の管理で、網膜症の発症進展に血圧が関与していることから130/80mmHg未満を目標とする。第3に脂質管理でLDL(悪玉)-コレステロールを120mg/dL未満を目標とする。
眼科的予防および治療は、視力が低下してなくとも定期的に眼底検査をすることである。なぜなら網膜症の初期は視力に関係がない網膜周囲から出現するから。眼科の医師が肉眼で眼底の血管の異常を見れないことがあるから造影剤を注射し血管撮影(蛍光眼底検査、FAG)を行う。FAGを行わないと初期の網膜症を見逃すことがある。また進行した網膜症でレーザーによる光凝固が必要な部分を検出するにFAGが必要である。進行した網膜症は光凝固および硝子体摘出術を行う。糖尿病黄斑浮腫に抗VGEF(血管内皮増殖因子)抗体を硝子体内へ注射する治療が行われ、保険適応となっている。
2、糖尿病腎症 腎臓に細い血管が糸まり状になった糸球体があり、高血糖により糸球体が障害される。糸球体は血液を濾過し尿を作り、障害されると尿に蛋白が出現する。初期は尿蛋白の排泄量により重症度の分類を行う。進行すると腎不全となり最終的に人工透析が必要となる。糖尿病腎症の分類は平成26年1月に表3の通りに変更となった。第2期、早期腎症は微量アルブミンで診断するが、以前?時間蓄尿し行っていたが、外来で多数の患者に行うことが困難で現在随時尿で行っている。すなわち受診時に採尿しアルブミンと同時にクレアチニンを測定し計算を行う。それをアルブミン指数というが、アルブミン量が少量なことから微量アルブミン指数といっている。正常値が30mg/gCr未満で30~299mg/gCrが早期腎症である。
300mg/gCr以上が第3期である。血中クレアチニンから計算したeGFR(推算糸球体濾過量)が30ml/min未満となると第4期で、透析療法を行うと第5期である。
第2期から第4期腎症の治療は、血糖コントロール、血圧およびLDL-コレステロールが網膜症と同様である。腎症の食事療法は食事から蛋白摂取量を制限する必要があり、第2期腎症なら蛋白を過剰に摂らない、第3期および第4期腎症なら低蛋白食(糖尿病腎症食)とすることである。腎不全が進行すると透析療法が必要となる。糖尿病腎症からの透析を予防するため平成24年に「糖尿病腎症からの透析予防指導管理料」が保険設定された。秋田労災病院内科は透析予防に積極的に取り組み、透析の先送りあるいは回避となっている。次回糖尿病腎症からの透析予防について掲載する。
(大館市 平成27年7月10日掲載)