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2023年11月

全国で相次ぐクマ被害 ブナ凶作と生息域拡大 未熟な母グマ増も要因か

2023-11-16
住宅地近くに出没した親子とみられるクマ3頭(大館市比内町笹館)=読者提供
 「12月や来年に入っても被害が続く恐れがある」―。降雪期が迫る中、専門家はこう警鐘を鳴らす。全国各地で出没が相次ぎ、北鹿地方ではこれまでに33人(14日現在)が襲われるなど、市民生活を脅かしているクマ。共生の道はあるのだろうか。
 今年は山林付近でなく、人の生活圏で被害に遭う事例が増えている。10月19日午前には、JR鷹ノ巣駅からほど近い北秋田市鷹巣の市街地で、10代の女子高生を含む5人がクマに襲われた。大館市でも比内町扇田の団地で人身被害が立て続けに2件発生しており、県が提唱するように「いつでも、どこでも、誰でも」遭遇しかねない状況だ。
 環境省の統計調査によると、10月末時点で確認された人身被害は全国で164件。被害者数は180人を数え、これまで最多だった2020年の158人を既に大きく上回る。このうち本県は53件61人で、全体の約34%。県自然保護課によると、目撃件数も過去最多を大幅に更新する3000件超。例年秋ごろには落ち着く傾向にあるが、今季は11月中も目撃が連日続いている。
 出没が増えた理由として、主食であるブナやミズナラの実の凶作が挙げられる。東北森林管理局が発表したブナの結実調査によると、本県の値は「0・1」で、隣県の岩手、宮城は共に「0・0」と異例の大凶作。同課の担当者は「秋の飽食期に餌が不足し、食べられるものを手当たり次第に探し歩いているのが現状」と解説する。
 一方で、記録の残る1989年以降の数値を参照すると過去年のうち、本県でブナが豊作となったのは2年だけ。3分の2が凶作、大凶作と判定されており、ひんぱんに出没する要因を「結実状況」の一言で表すことはできないだろう。
 クマの生態研究に取り組むNPO法人日本ツキノワグマ研究所(広島県)の米田一彦理事長は「まずクマの生息域の広がりが前提にある」と説明する。元々、日本の山林には集落に隣接する「里山」と、手つかずの自然が残る「深山(みやま)」があったが、地域の過疎・高齢化に伴い、草刈りなどの管理がおろそかになり、「里山の深山化が進行した」。人里との境界が曖昧になったことで、2000年ごろから集落付近で暮らすクマが徐々に増えていき、現在その傾向が顕著になっているという。
 しかし人里周辺に住み着いたクマは本来〝人慣れ〟しており、簡単に人を襲うことはないとされる。ではなぜ人身被害が多発しているのか―。
 「未熟なまま母親となるクマが増加したことが有力」と米田理事長は強調する。今季、警察や行政機関に寄せられる出没情報を見ると、体長1㍍前後のクマが子どもを連れているケースが目立つ。体長から推測すると母グマの年齢は3歳ほどで、交尾を行ったのは2歳ごろ。元々、雌の性成熟は4歳以降とされており、「一昔前の自然界では見られなかった傾向だ」。
 人里周辺のクマの個体数が増えたことで繁殖行動が活発化し、成熟し切らずに親となる雌が増加。「人との距離の取り方などが身に付いておらず、餌を求めてさまよう過程で意図せず人と遭遇し、反射的に襲ってしまっているのでは」と分析する。
 そして今、懸念すべき事柄は今年の「暖冬」予測だ。気象庁はエルニーニョ現象が来春まで続く影響で、東日本では「平均気温が例年より高くなる」と予想している。本来、クマは堅果類が凶作のシーズンは、無駄なエネルギー消費を抑えるため早めに冬眠するとされる。しかし、クマ研究の第一人者、東京農業大学の山崎晃司教授は「越冬が遅れ、12月ごろまで活動を続けることが十分に考えられる」と指摘する。また「冬眠から早く目が覚め、雪解け前から出没が相次ぐ可能性も高い」との見解も示しており、降雪後も気を抜かず、警戒を続ける必要がある。
 県自然保護課はクマをむやみに生活圏に侵入させないため、▽生ごみや農作物を適切に管理する▽カキなど収穫しない果樹は伐採するか、トタンを巻く▽下に落ちた果実は放置しない―などの措置を求めている。近藤麻実主任は「地域を挙げてクマを誘引しない環境整備が必要。人ごとと思わず積極的な情報共有、対策の実施をお願いしたい」と呼びかけている。
 さらにクマの異常出没は、近いうちにまた起こるとの見方もある。米田理事長は「現在母親と一緒に行動している子グマの今後に注目しなければならない」と強調。昨季から今季にかけての出生数は例年と比べてかなり多く、子グマが2、3歳となる2025年には、天候や餌の状況にもよるものの、今季並みか、それ以上の被害が発生する可能性も十分にあるという。
 ハンターの高齢化や捕獲に対する社会の理解など課題は山積している。クマとの共生の道は一朝一夕で確立できるものではない。自然との付き合い方を考える上でも、まずは目前の被害を確実に防ぐことから取り組みを進めたい。
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