北鹿川柳

川柳でユーモアのある街づくり
「川柳わらべの会」の協力を得て、平成7年にスタートした北鹿新聞社主催事業。管内5カ所に投句箱を設置し、広く読者の作品を募集しており、寄せられた作品の一部を毎月15日付の紙面で紹介しています。その中で月間賞に輝いた秀句を掲載します。
2022年3月
輪になれば両極端も手をつなぐ 児玉ユキヱ
【評】輪になれば喧嘩はしていられない。仲直りの秘訣かも。日常をうまく描写。
掛けちがい変えてみようかボタン位置 上杉 洋子
【評】少し日常生活の見方を変えてみよう。前向きな姿にも共感。ボタン位置の着眼の妙に一票。
消しきれぬ記憶もあって八十年 石田えい子
【評】記憶の中には捨てたいもの、忘れたいものが山積しています。でも何度消しても又蘇る場面もたくさんあります。長い年月生きた証しとして大切に保存しましょう。
赤い糸よくも切れずに五十年 芳賀 優子
【評】赤い糸とは生まれた時から運命の糸として存在するものといわれます。縁あって結ばれた絆には五十年間の互いの喜怒哀楽がしみこんでもっと強くなっていくでしょう。簡単にはきれませんよ。
欲しいもの笑い袋と春の靴 御所野ユウ子
【評】悲しいことの多い世の中と、豪雪極寒(ごっかん)の冬に欲しいものは、心の底からの笑いとどこへでも行ける春の軽い靴。ずばり言い当てる穿(うが)ちの境地。
いい顔を残して閉じるコンパクト 三浦 紀子
【評】顔作りをして、最後に澄まして見せ、よし今日はこの顔で通そうと覚悟を決め、パタンと閉じる音も残る。見える情景。

2022年2月
エンゲルに見られてるよな吾が暮らし 阿部 右門
【評】自粛ぐらしで、食費が嵩んで気が引けるとのこと。エンゲル係数習いましたよね。いいじゃないですか、今は。
引かれます全く無いが後ろ髪 浅岡 じん
【評】ギャグともジョークとも言う冗談、最高のからかいです。心が引きつけられ思い切れないこと、多いですよね世の中。
懐かしい亡母美し絹白髪 吉田じゅん一
【評】絹白髪と表現してますが絹には光沢がありますので美しいお母様だったと思います。セピア色に変わっていても何故か母への想いは温(ぬく)もりをあたえてくれるものですね。
磨いても深めの皺が笑うだけ 伊東多喜子
【評】皺は笑って生きた証(あかし)といわれます。磨くより一緒に時をすごして来た仲間として愛(いと)しみましょう。100才の笑顔は素敵ですよね。
マスク義務美髭の男音をあげる 庄司ふさお
【評】せっかく整えた髭と美男顔をマスクで隠さなければならない残念さ美男子も辛いですね。
振り込めば笑顔見えないお年玉 伊藤みつ子
【評】お正月には会えない、かといってお金を振り込めば喜ぶ顔が見られない、なんとも悲しい時世ですね。

2022年1月
トゲ抜きを使ってほしいあの言葉 吉田じゅん一
【評】何げなく聞いた一言でも心に刺さったトゲはルーペでもみえません。ほしいのは抜いてくれることばです。温かいやさしい一言がほしいですね。
少しだけ残した余白夢を書く 伊東 誠子
【評】白い画布でしょうか? 少しだけならば大きな夢は書けなくても自分だけの夢を楽しく描いてみましょう。余生が明るくみえて来ますよ。
ゆずり葉と松あしらいて梅が咲く 石澤 倫子
【評】いかにも正月らしい雰囲気のただよう句、温かさが伝わって来る一月にふさわしい一句。
はみ出した画布の向こうに孫の夢 御所野ユウ子
【評】小学生しかも低学年の孫さんでしょうか、新年に夢いっぱいの願い、見えるようです。今年にかける子供の姿が浮かぶ。
音もなく雪は静かに本音だす 能登谷清恵
【評】音もなく雪は降る。ボイラーの音だけが応えるも、雪の本音は朝になってわかる。本音とは、特にことしはぴったりの表現。
夢を買うつもりだったが欲を買う 庄司ふさお
【評】初(うぶ)だった最初の頃は、夢を語っていたものの、気づけば余裕もなくなっていて…。人情と割り切りますか。

2021年12月
老い二人一+(たす)一は二にならず 上杉 洋子
【評】二人で一人前と言ったりする語い不足、度忘れ。すっきりせず子どもらに電話したり。知恵は三にもなったりしますが。
嫌いとは言うまい次に春が来る 伊藤久美子
【評】冬を疎(うと)み嫌うのは無理もなく、沖縄は二十五度もあるなどと羨む日が続く。二か月我慢せよと、伊藤さんは言う。
恩師より立派なひげの叱った子 成田 純一
【評】同期会などに招かれるとよくある場面。あの子がと思うと嬉しくなります。
返せとは口に出さない親の恩 三浦 紀子
【評】親子でも借りた物は返すのが礼儀ですが子を想う親心は何物にも代えがたいもの。すがすがしい一句。
朽ち果てた心に添える杖ほしい 三上タツ子
【評】晩秋の句と想えば淋しさが漂う一句。心を支える杖とは人との触れ合いから生まれるもの。温もり、優しさ、語らいの場を作る。杖は自分でみつけましょう。
ど忘れか認知初期かと風さわぐ 児玉ユキヱ
【評】だれでも老化と共に忍びよる、もの忘れからはのがれる事は出来ない現実。風がざわついても無視。笑いで前向きにすすみましょう。一つの通過点と思うこと。

2021年11月
喋らなくなった帽子といるひとり 片岡登代子
【評】亡くなられた人を思う時こんな気持ちにもなります。帽子に何を語ったのでしょう。切ないひと時。
メモを見て慣れぬ買い物まだ一つ 石田きょう
【評】男性なら一度や二度は経験済み、最後の一品がどこにあるのかわからない。「下五のまだ一つ」に必死な姿が浮かぶ。前向きな姿に共感、ユーモア感も。
具材みな主役になれるオデン鍋 伊東 誠子
【評】冬の鍋は圧巻、主役はいない方がいい。皆同志でグズグズお喋りしながら美味しさを作る具材に期待。
化粧のり良くてこころも満たされる 能登谷清恵
【評】女性が自分を装う事に無関心になれば生きる喜びもなくなります。朝鏡に向い繕う一時(ひととき)は女性にあたえられた特権。のりのいい日は満たされた心で出かけましょう。いい日であります様に。
活けられて風を忘れた花芒(すすき) 渡邊 藍子
【評】枯れたススキが似合うのは、風に揺れる野原の群生。なのに活け花、風あってのススキですよね。うまい句です。
寝ころがり落ち葉の中に幼き日 今村ゆう子
【評】厚く敷かれた落葉なら、つい寝転びたくなります。下校の途中で、遊んだ日々、遥か遠い昔をうまくまとめました。
