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高齢ドライバーと運転 ~第44回地域の医療を考える集いから~

佐々木内科医院

院長 佐々木隆幸


 昨今、高齢ドライバーによる交通事故のニュースが世間を騒がせています。高速道路の逆走や急速で人混みに突っ込むなど、大事故につながったケースも多く報じられました。
 これを受けて2017年3月には改正道路交通法が施行され、75歳以上のドライバーには、高齢者講習に加え認知機能検査などが強化されました。運転免許証の自主返納の働きかけも広がり、悲惨な事故のニュースのあとは返納する方が増加しました。
 2015年までの20年間で65歳以上の高齢者人口は約2倍に増加しましたが、高齢ドライバーの人口は480万人から1710万人となんと4倍近くにまで増えています。この急増も問題の根本にあることは確かです。
 マイカーブームの時代に郊外型のライフスタイルが広まった世代が高齢者になりつつあり、そんな車社会の日本で特に代替移動手段に乏しい地域では、生活が不便になってしまうため運転をやめたくてもやめられない事情があります。
 高齢だと自転車や徒歩での移動は苦痛で困難となり、バスや電車は利用しにくくなり、移動手段としての車の魅力は高まります。高齢者世帯では現在、一人暮らしや夫婦のみの世帯が半数を超え、自ら運転しないと助けてくれる家族がいない場合も多いのです。
高齢者に限らず、車の運転は移動手段の他に、楽しみとか自尊心の満足という意味も持ちます。仕事をやめても車の運転はまだ現役だという自負が、運転が生きがいだという理由の一つかもしれません。運動機能の低下を、経験と知恵で補いながら運転を続けている方も多くおられるはずで、認知機能の低下が即危険運転としていいのかも難しいのです。
 マスコミは「高齢ドライバーは危険」というメッセージを伝えます。マイナスイメージに偏った報道は、偏見を助長する危険もあります。「危険にならないうちに運転をやめさせよう」と考えるか、「安全なうちはなるべく運転を支援しよう」と考えるかで対策の方向は全く違ってきます。客観的な評価と対策が望まれます。
 医学的な立場では、年齢とともに視力低下・視野狭窄や筋力の低下、反射神経の鈍化など生理的(病的でない)変化が必然的に起こります。また病気にかかりやすくなり生活習慣病を有するということも事故に関係します。
 高齢者特有の疾患が増え「老年症候群」とも呼ばれることがありますが、転倒、尿失禁、認知症、睡眠障害、意識の混濁、慢性めまい症など多くの病気が当てはまります。高齢者は一般に身体が弱く同じような事故でも死亡事故が多くなりがちです。
 最近広がっている危険防止機能付きの自動車も多くなり、事故防止に一定の効果を果たしています。また自動運転技術も進められていますがまだ実験段階なのが実情です。
 一方で高齢者にとって車の運転は、医療や介護の費用の節約になるというデータもあります。運転が健康ひいては介護予防に寄与する可能性があるというのです。
 このように高齢ドライバーの運転問題は、様々な切り口があり、簡単に結論は出せません。社会と個人という視点があり、また個人ごとに事情は異なります。社会としては免許制度(限定免許)、更新時のテスト(運転技能の評価)、返納後の移動手段の確保、等々。個人では自分の運転技術の自覚、訓練、返納のタイミング・説得、家族の支援等々。
 高齢ドライバーの皆様も、正確な情報を得て、交通事故の特性を知り、自身の運転と問題を知れば事故を起こさずに済むことは十分に可能と思います。
 大館北秋田医師会では44回目の「地域の医療を考える集い」でこの注目されているテーマを取り上げ、専門の二人の講師に諸問題について解説していただきます。演題は「脳の働きと運転」、「高齢者と運転免許」です。
 この集いが高齢ドライバーやその予備軍の方、またご家族の皆様の安全安心のお役に立てば幸いです。自分や身近な人がいつ加害者や被害者になるかわかりません。他人事と考えずにぜひ多くの皆様のご参加をお待ちしています。
(大館市 平成31年11月15日掲載)

 

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