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糖尿病(5) ―糖尿病と認知症―㊤

秋田労災病院 糖尿病・代謝内科 

八代均


1.はじめに
  超高齢社会になり認知症が問題となってきた。認知症の患者数が予測していたより急激に増加し、平成24年厚生労働省の調査で認知症患者数が420万人であった。糖尿病患者も急激に増加し平成25年の厚生労働省の調査では糖尿病が疑われる人と否定できない人が2200万人となっている。認知症も糖尿病もどちらもごくありふれた疾患となってきた。認知症は、「正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害により持続性に低下し日常・社会生活に支障をきたす状態」と定義されている。認知症は以前「痴呆症」といわれていたが、2004年に「認知症」と言い換えるようになった。最近の研究で認知症と糖尿病が密接な関係があることが分かり、「糖尿病治療ガイド2016~2017」で認知症が糖尿病の第9番目の合併症とされている。糖尿病患者の認知症リスクが非糖尿病者よりも2~4倍と高いことから、アルツハイマー病は脳の糖尿病という先生もいる。さらに境界型耐糖能異常(前糖尿病、糖尿病予備群)は非糖尿病に比較し将来認知症になる可能性がより高いことが報告されている。
2.糖代謝と認知症
  アルツハイマー病患者の脳にアミロイドβ(Aβ)とリン酸化タウ蛋白が蓄積している。脳内で形成されたAβは、インスリンを分解するインスリン分解酵素によって分解される。インスリン抵抗性があり高インスリン血症となるとインスリン分解酵素がインスリン分解のために消費されAβが分解されなくなる。増加したAβは神経細胞外へ蓄積し脳機能の低下となる。また、糖尿病によりリン酸化タウ蛋白が形成され神経細胞内へ蓄積することにより神経原線維に変化を来たすことになる。高血糖、インスリン抵抗性、インスリン分泌不全、高インスリン血症、低血糖および血糖変動幅の増大が認知機能の低下および促進因子となる。

3.認知症の分類
  認知症は5つに分類されている。アルツハイマー型認知症は脳全体の萎縮と特に記憶に関係する部位(扁桃体、海馬)の萎縮が強くなっている。脳血管性認知症は脳梗塞、脳出血あるいはくも膜下出血などの脳血管性疾患により脳の血管が詰まったり破裂したりし脳の機能が低下して発症する。レビー小体型認知症は、レビー小体(変異型蛋白)が脳内に蓄積し発症する。レビー小体が脳幹部に蓄積するとパーキンソン病を合併することになる。症状として幻覚を示すのが特徴である。前頭側頭葉型認知症(ピック病も含む)は前頭葉や側頭葉に萎縮がみられ、65歳未満で発症する若年型認知症である。その他の認知症は脳内外にある疾患がありその疾患の症状として認知機能の低下を示すものである。脳内疾患として、脳腫瘍、脳の感染症、交通事故等による頭部外傷や脳挫傷、正常圧水頭症および慢性硬膜下血腫などがある。脳外の疾患として甲状腺機能低下症がある。原因疾患が改善すると認知症も改善する。
4.認知症の症状
  認知症の症状に中核症状と行動・心理症状(周辺症状)がある。中核症状は記憶障害に関係する、見当識障害(時間と場所が分からなくなる)、失計算、実行機能障害、判断力の低下、失行、失語および失認などである。行動・心理症状(周辺症状)は、幻覚、妄想、興奮、不潔行為、食行動異常、介護への抵抗、暴言・暴行、攻撃性、不安・焦燥、抑鬱、夜間譫妄および睡眠覚醒リズム障害などである。人は誰でも加齢に伴い認知機能が低下してくるが認知症による認知機能障害と鑑別が必要である。鑑別の要点は、加齢に伴う認知機能低下の場合に短期記憶である記銘力低下が軽度、見当識障害がなく、日常生活に支障がなく、忘れたことを悔やむ病識があり、認知症が心配になり自分で病院を受診するなどである。

(大館市平成28年12月2日掲載)

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