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ちょっと便利な漢方薬(8)

佐々木小児科医院 院長
佐々木静一郎

9 アトピー性皮膚炎の漢方治療
 それでは早速に代表的な症例を3例あげてみる。そのそれぞれについての説明は、分かりにくいところもあると思うが、このように考えて治療してゆくのは、昔からの伝統的なものに新しい考え方を加えたものである。その新しいものとは、漢方薬の特徴である、「炎症を治す」と「自律神経の調整」の2つのこと、これを大いに利用していることである。
 
 〔症例1〕11歳、男児
家族関係では、母に鼻と目のアレルギーと、ぜんそくがあった。
本人の病歴は、生後1カ月乳児湿疹、小学低学年にはアトピー性皮膚炎と診断されて、これまでに総合病院と開業医の皮膚科、合わせて4か所で治療を受けてきた。

 初診は平成××年1月9日で、全身に皮疹がいっぱい出ていたが赤いところはあまり多くなくて、全体に乾燥した皮膚にボツボツと斑点状の病変が多く見られた。それでアトピー性皮膚炎の診断で、内服薬は①ビオチン散(西洋薬、ビタミンBの1種)、②治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)(漢方薬)で、外用薬は顔面に①ロコイドクリーム、躯幹・四肢に②リンデロンV軟膏を使用した。

 2月8日になって全身とてもよくて、わずかしか皮疹が見られなくなった。その1カ月あと順調に良くなってきているが、かゆいと言うので頭にパルディスローションを、躯幹・四肢には1ランク弱くしたステロイドのアルメタ軟膏とした。2月22日の検査では白血球数5900/μL(うちリンパ球41・2%)。卓球の部活があるので、帰宅したらすぐシャワーで汗を流すように指示した。

 5月31日、右手背がガサガサと厚ぼったくなって乾燥する苔蘚化病変になっていたので、ここに外用として「リドメックス軟膏+ヒルドイド軟膏」を使用した。1カ月半後にはこの治りにくい病変もだんだん良くなってきた。7月26日には白血球数7500/μL(うちリンパ球31・9%)。このようにして全身にかるい湿疹病変が残る程度で、ほぼ満足できる状態にまで回復して、ほかの土地へ転出していった。
 
〔症例2〕31歳、女性
 これまでぜんそく、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎があった。幼稚園の頃からかアトピー性皮膚炎と診断されて、皮膚科とか他の科でいろいろと治療をうけてきた。
H××年5月21日初診。頭、全身に帯黄赤色の皮疹がいっぱい出ていて、丘疹も散在する。アトピー性皮膚炎の診断で、内服薬はビオチン、外用は①パルディスローション(頭部に)、②ロコイドクリーム(顔面に)、③リンデロン軟膏(躯幹・四肢に)とした。検査は白血球数4400/μL(リンパ球30・5%)であったが、約1カ月後の6月25日には、アトピーの症状は全体にはだんだん良くなってきたが、白血球数5100/μL(リンパ球27・1%)となっていて、自律神経の方が初診時と比べて交感神経が優勢になっていたので、漢方薬の柴苓湯(さいれいとう)をも併用することにした。

 9月6日になってだいぶよいが、皮膚が全体に黒ずんできている。それに柴苓湯をのんである程度はよいが、そこから病状が好転しないので、漢方薬を荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)に変えてみた。この方剤を1カ月くらい飲んだ10月1日の時点で、本人は少し良いようだと言っていた。そこで12月10日に調べてみたら、白血球数5900/μL(リンパ球30・3%)と自律神経のバランスが、良い方向に動いてきているようだった。

 H××+1年1月10日、そこで患者さんに舌下静脈怒張があるので、漢方を桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に変えて、この処方をもう少し続けてみることにした。
本例はまだ本当に治癒にまでいっていないが、あれこれともう少し工夫しながら、目的を達したいと考えている。
 
 〔症例3〕79歳、女性
 75歳のとき、戸外で太陽に当たると、衣服を着ていても顔に膨疹様の発疹がでてきた。
また背中がチカチカしてきて、掻くと腫れあがる。77歳の頃から身体のあちこちがかゆくて皮膚科を受診している。
 H××年9月2日初診。胸部に発疹が、背部全体に紅斑が出ていて、赤く盛り上がっている。検査してみると白血球数5200/μL(リンパ球19・4%)であったので、診断は①日光過敏性皮膚炎、②アトピー性皮膚炎として治療を開始した。内服薬は①ビオチン、免疫の方ではTh1∨Th2とみられるので②柴苓湯を、外用薬はロコイド軟膏とした。この治療で背中のかゆみが良くなって来て、盛り上がっていた紅斑もとれてきた。でも日光に当たると30分くらいで赤くはれて来てかゆくなり、全身が赤褐色になっている。それならばということで、漢方の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を内服させたところ、全身の発疹がどんどん良くなってきた。
 11月19日全身の発疹はあまり出ていなくなったが、背中はあちこち未だかゆい。このようにして劇的に良くなってきたので喜んでいて気がついたら、肝機能が悪化していた。そのときのデータは白血球数4800/μL(リンパ球25・7%)、LD333 U/L、γGT39U/L、AST129 U/L、 ALT124 U/L、 A1―P 212 U/L であった。この値にはびっくりしてこの処方を即刻止めた。そして経過を見ていたら肝機能がだんだん良くなって来て、2カ月あとには全身の肌が見違えるようにとても良くきれいになってきて、とても年相応には見えない。あまり医学的な表現ではないが、「ま、肌が若返った?」といった方が良いくらい、とにかくこの治りようには驚かされた。

 ××+1年3月20日、夜に足が冷えて眠れないというので真武湯(しんぶとう)を処方したら、眠れるようになった。それに、これまでは暖かい部屋とか、人ごみの中にいると顔がほてってくるのが、そうはならないし、顔も赤くならないと言っていた。以前は天気が良いとき庭の草取りをして日光に当たっていると、顔が赤くなってきていたが、麻黄附子細辛湯を飲んでからは、赤くならないそうだ。

 ××+1年11月28日、肝機能は全く正常化している。全身ほとんど湿疹はなくて、肌がきれいだ。
そこで今後の計画は、①アトピーが再発してこないように、自律神経の片寄りを直す。②さらには、乾燥肌を治してかゆがらないようにする、ということになろうか。
 
 最後に、各々の症例についてコメントしながら、まとめとする。
〔症例1〕の治頭瘡一方は、アトピー体質のアトピー性皮膚炎を、ことに赤ちゃんのアレルギーをTh2を落として速く治す。〔症例2〕では、自律神経のバランスが交感神経寄りなので、これを副交感神経の方に直してゆけば治癒すると思う。〔症例3〕は、交感神経の緊張状態がつよかったので、自律神経のバランスを取るために使った柴苓湯が効きすぎて、肝機能の悪化をきたしたもの。

 今回のアトピー性皮膚炎の治療では、交感神経と副交感神経、つまり自律神経のバランスを取ることを念頭に置いて治療した。ただ問題は、〔症例3〕の場合の肝機能の悪化である。「漢方薬には副作用はない」とよく言われるが、実は今回示したようにあるのだ。ただこの様なことを防ぐためには、時々その人の体質、いわゆる「証」をよく見ていく必要がある。この人のような肝に影響が来る人は柴苓湯に敏感なのだと思う。その証拠には、難治性のアトピーが他のどの人よりも治りが良いので、柴苓湯が敏感に作用するのだと分かる。蛇足になるが、このような場合これを副作用とは漢方では言わないで、「誤治」といっている。
(大館市 平成27年2月13日掲載)
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