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ちょっと便利な漢方薬(10)

佐々木小児科医院院長
佐々木静一郎


1かぜ関連の漢方治療(平成24年6月8日と、同6月15日の2回にわたって本紙に掲載済み)2片頭痛の漢方治療(平成24年10月5日に、同じく掲載済み)3腹痛の漢方治療(平成24年10月12日に、同じく掲載済み)4インフルエンザの漢方治療(平成25年2月1日に、同じく掲載済み)5「かぜをひきやすい子、ぜいぜいする子」の漢方薬による体質強化(平成25年2月1日に、同じく掲載済み)6皮膚関連疾患の漢方治療(平成25年7月12日に、同じく掲載済み)7女性の漢方治療(平成26年1月17日と同26年1月24日に、同じく掲載済み)8精神疾患の漢方治療(平成26年9月19日に、同じく掲載済み)9アトピー性皮膚炎の漢方治療(平成27年2月13日に、同じく掲載済み)?難治性で、治療に工夫を要した3症例(平成27年8月14日に、同じく掲載済み)

11精神・神経疾患3症例の漢方治療
 〔症例1〕5歳9か月、男児(1回目来院時)初診XX年2月X日来院する2?3日前から腹痛があったが食事もとっていて元気だった。その前年から幼稚園にはいっていて、1歳3か月の妹がいる。これまでも時どき腹痛があるというので、①漢方薬の甘麦大棗湯を7日分処方、②母に「自分が一番愛されていると思うように」この子にしてあげるように、と指示した。そしてその7日あとに来院したときには、主訴の腹痛は大分訴えなくなったので、同薬をそのあと31日分飲んで終薬とした。
(2回目来院時)1回目の来院時から約6カ月たっている。その前日のこと、頭痛いと言っていたが、登園した。午後になって体温が37・6度になり、元気なくなった。本日は「アタマ、ノドいたい?」。最近になって、たまに、幼稚園に行きたくないときもある。それでも食事はよく食べて排便もよく、戸外で遊んでいる。「来年から就学だ」というので、私は「母児同服」を勧めてみた。というのも、家にいるときは元気よくて、あばれたりしているが、他所に行けば静かで、おずおずしているように見受けられる。それで、お母さんにも一緒に服薬してもらったほうが効果的だと考えたから。

 診断は患児は〈心因性腹痛〉、母親(40歳)の方は〈神経症〉としけいしかりゅうこつぼれいとうて桂枝加竜骨牡蠣湯、よくかんさん甘麦大棗湯、抑肝散などを服用してもらった。これに一言つけ加えれば、患児は下に妹ができたのでヤキモチを焼いてこの様な症状をあらわしていて、これに手をやいた母親の表情や態度をみてはまた、頭痛や腹痛などの反応をあらわしてくる。さらに来春の就学がまたストレスとして加わってくる。いずれにせよ、また母親の育児の仕方もだんだんにうまくなってゆくでしょう。

 〔症例2〕37歳、女性初診XX年6月10日で、来院する1週間以上も前から腹痛(胃と下腹部)がある。たまに下痢と悪心もあるが、昨日は3回の下痢で、いつもは月経中は便性は硬い。かぜらしくもないし、飲食の不摂生もない。いつも手足は冷たく寒がりで冷え症、冬は特に足が冷たくなる。しもやけはでない。体格は小で、脈はやや弱、体幹は汗ばんでいる。腹診では胸脇苦満なくて、みずおちに動悸があって、腹直筋はやや緊張(腹皮拘急)していて、下腹部全体にしこりがある。もうそろそろ月経が来るころだと。それで腹痛がかなり強かったので、外来で芍薬甘草湯を温服させたら17分くらいで腹痛もよくなり、元気が出てきた。そこで、胸脇苦満はなかったけれども腹直筋が緊張気味だったので柴胡桂枝湯を3日分処方して終診とした。「夜の仕事でストレスがかかる」と言っていた。診断は〈ストレスによる腹痛〉。

 〔症例3〕16歳、女性まだ初潮がくる前の5年生の頃から、疲れがたまったりしたとき腹痛(みずおちと臍の間がギュッと痛くなる)と下痢(水様便)が日に3~5回きていた。中学のころは気になるほどではなくて、何処にも受診はしていなかった。初診X年7月18日1年前から腹痛がつよくなって、いつも水様便がでるようになったので、気になってきた。夜中に腹痛があって排便のためにトイレに行くが、翌朝になって、夜中にトイレに行ったことは分かっているがその間の詳細なことは記憶にない。その「腹痛、ついで下痢」の発作のときには、頭がボーっとして、目がうす暗くなる。でも、トイレに行ったことは分かっている。腹診では、胸脇苦満(肋骨下右から左にかけて++)、腹直筋やや緊張、圧痛(-)、舌下静脈怒脹(++)であった。それで、症状から考えて抗痙攣作用を期待して柴胡桂枝湯1週間分を服用してもらったが無効であった。そこで同じく柴胡剤である四逆散を飲んでもらったら腹痛は5回から3回にへったが、下痢はまだある。でもこの方剤である程度効果があるような感触をつかんだ。

 X年7月31日それではと思い、帰調血飲を処方した。そしたら、この方剤を服用してから腹痛も下痢も全くなくなった。その後の経過は、月経はこれまでと同じく順調で体調には何ら変わりはない。そこで改めてこの発作らしい症状を聞き出してみると、つぎのようである。1年前までは月経のまえにはなにも変わったことはなかった。でも腹痛が来て、頭がボーっとしてきて、物が見えているが、ボヤーっとしてきて、何か物が見えてくるような気がしてくる。頭痛が来るとき腹痛も一緒に来て、ひどくはないが下痢便となる。いわゆる発作のときの記憶はない。このような状態が半月くらい続いて、自然に良くなってくる。この症例の診断は〈自律神経発作〉だと、私は考えている。だがその診断を確定するための脳波検査で確証は得られなかった。

※注1胸脇苦満①ほんらいは「胸から脇にかけて重苦しく張っている」という自覚症状をさす。②のちに、胸から脇にかけての部位に抵抗および圧痛があるという他覚所見が発見された。それで現在では①と②の両方を併せて胸脇苦満とよぶ。注2柴胡剤漢方の生薬の柴胡を中心とした漢方方剤。注3?帰調血飲気血を調理するというもので、貧血を補い、悪露・悪血を去り、脾胃消化器系の働きをよくし、産後の血の道症に起こる自律神経失調の諸神経症状に用いる。
(大館市 平成28年4月8日掲載)
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