毎週金曜日本紙掲載・協力:大館市北秋田郡医師会

「鼻が悪いと頭が悪くなる?」
山内耳鼻咽喉科
山内博幸

 鼻が悪いと頭が悪くなる、などとまことしやかに言われていた時代がありました。窓口負担も安い時代、それを信じた人たちが耳鼻科医院の門前に市を成した時代、もうすでに過去のことです。
 鼻が悪いと頭が悪くなる、そのように言う人は最近では少なくなりましたが、これは本当に朽ちた常識なのでしょうか。
 実は朽ちてはいません。頭が悪くなる(勉強の成績が悪くなる)という表現には問題がありますが、脳の働きに影響を及ぼすことは間違いはありません。実際に鼻が強く詰まった人は仕事や勉強の効率が極端に落ちることを経験します。
 でもそんなのは鼻の病気に限ったことではありません。胸の病気だってお腹の病気だって、手足の病気、皮膚の病気、目の病気など、どの部分の病気であっても注意力や集中力を低下させ人間の生活活動に支障することに違いはありません。
 しかし、そのような病気の一般的な性質を差しひいても尚、鼻の病気は脳に影響を及ぼすということができます。それは、鼻には脳の性能を維持する重要な役割があるからです。
 それは何かというと脳を冷却する役割です。
 脳には心臓から血液が送られますが、血液はほとんど冷却されずに脳に送られます。頸部では体表に近い部分を走行している頸動脈ですが、血管壁が厚いこと、血液の流れが速いこと、人間の頸が短いことが原因です。
 脳という高性能CPUは熱を発生します。これはコンピューターのCPUと同じですので、あなたがノートパソコンをお持ちなら使用中にかなり熱くなることはご存じでしょう。
 また同時に脳は熱に弱いのです。脳という部分が身体のなかで冷却されやすい末端部分にあるのはそのためで、筋肉部分の多い胴部が運動によって過熱しても熱の影響を受けにくい位置にあります。
 発熱などで脳温が上昇すると過熱したコンピューターのように脳は『熱暴走』を起こします。これが子供の熱性痙攣やいわゆる『うなされる』という状態です。人間は古い時代から発熱時に頭を冷やすと楽になることを経験から知っていました。きっと石器時代の人達も発熱時には頭を冷やしていたことでしょう。
 しかし、外からだけの冷却だけでは不十分な場合もあります。特に丸い物体の真ん中付近は物理学的に冷えにくく、二足歩行によって容量が拡大した人間の脳は他の動物の脳よりもさらに冷えにくくなっています。
 冷却されにくい頭部の中心を内部から冷却するのが鼻の役割です。鼻の粘膜や鼻の周囲には静脈が網目のように発達し、脳や顔の深い部分から戻ってきた温度の高い血液がそこを流れます。静脈が網目のように分岐することで血管の表面積が増え、流れる血液の速さが遅くなることで放熱しやすい構造になっています。鼻の粘膜も複雑に折れ曲がることで表面積を増やし、まさしくラジエーター(熱交換器)の構造を作っています。
 鼻の静脈から周囲の組織に熱が渡され、さらに鼻を通る空気にその熱が渡されるのですが、この時に粘膜が粘液によって湿っているために生じる気化熱で熱の受け渡しが効率的にできるようになっています。気化熱とは、たとえばアルコールで手を消毒するとひんやりしますよね。液体は蒸発するときに熱を奪うのです。鼻の粘膜が乾いていると鼻が苦しいのは気化熱が利用できず鼻の中の温度が下がりにくいためです。
 鼻の中で空気に渡された熱は吸気を加温加湿するという見事なエネルギーリサイクルが行われています。またこのようにいわば『静脈血冷』方式で放熱することにより、仮にサウナのように体温よりも高い空気の中で呼吸しても鼻の中で熱せられた血液が静脈を通って心臓に戻ることで脳に熱が逆行するのを防いでいます。単なる『空冷』方式ではこうはいきません。このような合理的なしくみによって体の表面からは冷えにくい頭部の中心部分を冷やすことができます。これこそ神様が顔の真ん中に鼻をつくった理由です。
 鼻が詰まって脳温が上がった状態は脳の活動を低下させます。発育期にある子供らの鼻詰まりはきちんと治療するのがよいし、熱が高くて鼻詰まりがあるときには鼻を通してあげるとずいぶんと楽になります。
                        (大館市 平成20年11月21日掲載)

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